#1 「アクション」の矢嶋監督、「かわいい」の寺本監督
気がつくとわたしたち二人だけ。黙々と仕事していた記憶があるんだけど。
寺本幸代(てらもと ゆきよ)監督
寺本幸代監督(以下、寺本) 『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』公開直後から話題独占ですね。大ヒット、おめでとうございます!
メインポスター
矢嶋哲生監督(以下、矢嶋) ありがとうございます!背中を追い続けてきた先輩の寺本さんにそう言っていただけると、うれしさが何倍にもふくれあがります!
僕がベガエンタテインメント(アニメ制作会社)に入社したのが2006年。まったくの新人にも関わらず、寺本さんが監督をされた『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜』(2007年公開)では、動画を担当させてもらったんです。それが寺本さんと直接お仕事させていただいた最初でした。
〜7人の魔法使い〜』(2007年公開)
メインポスター
寺本 もう20年も経つんですね。おたがい歳とるわけだ(笑)。
矢嶋 その後、『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』(2011年公開)では、絵コンテを手伝わせていただきました。
〜はばたけ 天使たち〜』(2011年公開)
メインポスター
寺本 『新・のび太と鉄人兵団』のときは制作スケジュールがかなりタイトで、とても一人では絵コンテを描ききれませんでした。私はアクションパートに苦手意識があるので、制作の方にアクションの得意なコンテマンに手伝ってほしいと相談したところ、矢嶋くんを推薦してくれたんです。
作品ごとに振り返る
矢嶋 4年間在籍した会社を辞めて間もない時期だったので、声をかけていただいたことがほんとうにうれしくて。二つ返事でお手伝いさせていただきました。
寺本 鏡面世界で、鉄人兵団にさらわれたリルルをのび太たちが助けに行くシーンや、ザンダクロスの最後の戦いのシーン、どれもすごくかっこよかった!とてもこんなに迫力のあるアクションは、私には描けません。素晴らしかったです!
実は、映画の絵コンテはこの時が初めてだった矢嶋監督
矢嶋 ありがとうございます!じつは、映画の絵コンテを描いたのは、あの時がほぼ初めてだったんです。でも、寺本さんの作品でアクションシーンをたくさん手掛けさせていただいたおかげで、そのあとアクションの仕事がたくさん入ってきたんです(笑)。感謝しています!
矢嶋 『新・のび太と鉄人兵団』のときは、寺本さんのパートと僕のパートが同時進行していたので、寺本さんのコンテが上がってくるたびに、まっさきに目をとおしていたんです。ピッポとのび太のやりとりのシーンなど、思わず目頭が熱くなって…。
両監督が同時進行で作業をしていた
寺本 ピッポは、ザンダクロスの頭脳が「おはなしボックス」でひよこ型ロボットになった、生意気ですっごくかわいいキャラだったよね。
矢嶋 最初はただ生意気なやつだったのに、だんだんのび太と心を通わせていく。僕には「かわいい」の引き出しがないので、寺本さんの「かわいい」には絶対に勝てない。エモいシーンを描かせたら、寺本さんの右に出る人はいないです。
ひよこ型ロボット・ピッポのかわいいシーンが炸裂
寺本 当時は、完全に夜行性だったので、夜に集中して作業していました。気がつくとわたしたち二人だけ。黙々と仕事していた記憶があるんだけど。
矢嶋 僕も、夜な夜な背中に寺本さんの気配を感じながら仕事していた記憶があります。当時は、ぼくもかなりの夜行性でした。
寺本 いまも夜型?
矢嶋 子どもたちがまだ小さくて、下の子の寝かしつけがぼくの役目なんです。夜9時から9時半ごろに娘といっしょに寝て、2時過ぎに起きてそこから仕事をしています。
寺本 それは大変だね。体にも負担がかかるでしょう。会社にいた頃よく飲んでいた栄養ドリンクは、まだ飲んでるの?
矢嶋 時々飲んでます。でも、健康のことを考えてシュガーレスにしました(笑)。
#2
『映画ドラえもん
新・のび太の海底の鬼岩城』
のキーワードは、「バグ」
最初は作品のテーマがよくわからなくて…。
でも「自己犠牲」ではないと思ったんです。
寺本 すでにいろんなアニメ作品で監督実績も豊富な矢嶋くんだけど、今回『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』で、『映画ドラえもん』の監督デビューをした感想をきかせてもらえますか?
矢嶋 アニメ制作を目指していた頃、自分が子どものときから観ていた『ドラえもん』に携わることなんて想像もしていなかったし、ましてや映画の監督をすることになるなんて考えてもいませんでした。寺本さんが手掛けられた『映画ドラえもん』のお手伝いをしたときもかなりのプレッシャーを感じていました。
映画ドラえもんの監督デビューを果たした矢嶋監督
プレッシャーはかなりのものだった
今回、僕が監督することになった『新・のび太の海底鬼岩城』は、原作も人気の高い作品だし、旧作(1983年公開『映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城』)のファンも多い。だからこそ、旧作をリメイクするのではなく、藤子・F・不二雄先生の原作『大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城』をもう一度アニメ映画化するという気持ちで挑みました。
寺本 43年ぶりの映画化かぁ。でも、子ども時代に観た旧作のイメージにどうしても引きずられるから、難しかったでしょう。
矢嶋 僕がはじめて映画館に連れて行ってもらったのが『のび太のドラビアンナイト』(1991年公開)。以降の作品はもちろん、それ以前の作品も映画館やビデオで観ているのですが、なぜか観ていない作品もほんのすこしだけあって、『のび太の海底鬼岩城』もそのなかのひとつだったんです。
(1991年公開) メインポスター
寺本 偶然とはいえ、旧作を見ていなかったことが、今回の作品への向き合い方に影響を与えてるのかもしれないですね。それも運命的というか…。
矢嶋 原作を忠実に映画化することが最も重要だと考え、『大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城』を何度も読み返しました。最初は作品のテーマがよくわからなくて…。でも「自己犠牲」ではないと思ったんです。
寺本 ネタバレになるのであまり詳しくは言えないけれど、コンピューターの頭脳を持ったバギーちゃん(ひみつ道具の「水中バギー」)の行動がカギを握っている作品だものね。
水中バギーは、AI機能搭載で伸縮可能。5人と行動を共にする。
矢嶋 何か違う描き方があるんじゃないかなと、プロデューサーと何度もブレストを繰り返しました。現代のAI(人工知能)をベースに考えると、AI が選択しないであろう非合理的な答えを選択したことに、きっとこの作品のテーマがあるんじゃないか。それはAIの「バグ」かもしれない。
何度も話し合った
では、この「バグ」とは、いったいなんなんだろう。もしかすると、それが人間でいう「心」なんじゃないか。そこから視界がパッと開けて、作品の軸が固まってきました。
寺本 「バグ」かぁ。たしかに人間は「バグ」ばかり。非合理的な生き物だもの。バギーちゃんの「正しいと正解は違うのですか?」というセリフ。そこには「バグ」が「心」に変わっていくゆらぎのようなものがある気がしました。
でも、とんでもなく深いテーマにたどりついちゃったから、作品として作っていくのには相当の苦労があったと思います。
思わぬハプニングに合いながらも、映画制作はつづく
矢嶋 去年(2025年)絵コンテに取り掛かった直後、肺炎にかかったんです。最初は、普通の風邪だと思っていたのですが、だんだんおかしくなって、息ができなくなって、病院に駆け込みました。ちょうど前厄だったので、そうきたかと。
寺本 大変でしたね!でも、そんな「バグ」は、遠慮したい(笑)。
矢嶋 入院はしなかったのですが、安静が必要だったので自宅のベッドにiPadを持ち込んで、仕事していました。寺本さんは、アクシデントはなかったですか?
寺本 私も2024年の夏、『のび太の絵世界物語』のコンテと演出で追われてたんだけど、突然当時住んでいた所の取り壊しが決まって、退去してくださいと。年末の12月、しかも映画制作の大詰めも大詰め、最高潮に忙しい時期に引っ越しすることになっちゃった。
(2025年公開)
メインポスター
矢嶋 なんてこと。それで、どうされたんですか?
寺本 家探しをする時間なんてないから、取り壊しに関わる調整をしてくださっていた弁護士さんが代わりに家を探してくれる人を紹介してくれて。こんな物件がありますよ。それじゃ、ここでいいです、と(笑)。引っ越しの段ボールもほどかないまま、仕事していました。映画は、長い時間かけて作るので、いろんなハプニングがありますよね。
▶ 後編(Part2)へつづく