「おつかれさま、よかったね」

映画の制作を終えたいま、あらためて「映画ドラえもん」に必要なことは何だと思いますか?

いっぱいあると思うんですけど、とりかかるときに骨子として外せないと考えたことが大きく2つありました。1つは日常から出かけて日常に戻ってくること。冒険に出かけるきっかけも、のび太の些細な願望であること。そして2つめは、出会いと別れの物語であること。これも絶対に外しちゃいけないことだと思っていました。

たしかに、これまでの作品もそこを外しているものはないですね。

私は「映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史」のラストがすごく好きなんです。コーヤコーヤ星とのび太の部屋がだんだん離れていく中、みんなが手を振っている。涙涙のお別れではなくて、お互いに笑顔で。別れは別れとしてのみこみながら、彼らはそれぞれの世界でやっていく。あの場面こそが「映画ドラえもん」の象徴というか、原点だと思っているんです。あのラストを目指して、ルカたちとのび太たちの関係をちゃんと結んであげたいと考えながら書きました。

「映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史」(1981年公開)

僕が「映画ドラえもん」に必要だと思うのは、エンターテイメント作品であることですね。けれど、それだけではだめ。王道のエンタメでありつつも、これまでとは違うものを作らないといけない。すごく難しいですが、両方を成立させないとだめなんです。

これまでとは違うものとはいえ、外しすぎてもだめなんですよね。これが本当に難しい……。

そうですね。ドラえもんでやるからにはドラえもんらしさが必要ですからね。テイストの違うものは他の作品でやればいいわけで。つねに新しく、なおかつ王道であること。それをF先生は16作も生み出してきたんですね…。

F先生は17歳でデビューされているんですけど、『ドラえもん』の連載を始めたのは意外と遅くて36歳のときなんです。

いまの僕たちと同じくらいの年齢ですね。

以前にF先生の経歴をあらためて調べる中でそのことを知ったとき、私も36歳になるまでに、いろんな準備を終えて、そこから自分の一番の代表作やライフワークとなるような作品を書けるようになっていたいと思ったんです。実は今回の脚本をお受けすることを決めたのが、その36歳の時。不思議なご縁を感じます。

辻村さんのライフワークって何ですか?

本屋大賞をいただいた『かがみの孤城』を書き終えたとき、私はこれから先も目線や切り口を変えながら、十代の子供たちのことを書き続けるんだろうなと思ったんですね。それに加えて、F先生のスコシ・フシギを感じるような日常と非日常の融合。そんな作品を書いていくことが私自身のライフワークになるのかなと思っています。

僕にはこれっていうライフワークはないんですけど、クリエーターとしてのピークについて考えることがあります。まんが家にしても映画監督にしても、意外と若くしてピークを迎える人が多い中、じゃあ自分はどうなんだと思うんですね。もしかしたら、いまピークが来ているのかもしれない。だから、まだ30代だからとか臆していないで、いまがいちばん脂ののった時期だと思いながら新しいことに挑戦していきたいと思っています。

今回、八鍬さんとお仕事ができて本当に感謝しています。「あんなにドラえもんファンを公言している辻村が書くのなら」「直木賞や本屋大賞をとった作家が書くのなら」という期待の声を聞くたびに、実はものすごいプレッシャーを感じていました。そうだよね、私も自分のことじゃなかったら、きっと期待するよ!って(笑)。だけど、八鍬さんがものすごいジャンプ台と安全マットを用意してくれて、私に「どこまででもやっていいですよ」と思いきり飛ぶための準備を整えてくれた。おかげで、大怪我することなく高く飛び上がり、無事に月面着陸を果たせました。

こちらこそ、辻村さんと仕事ができて本当にうれしかったです。大人になって、仕事を通じてここまで本気でぶつかりあう相手や、新しい友だちなんてできないから。3年間一緒に仕事をして、信頼関係が築けたことを誇らしく思っています。僕にとって大きな財産となりました。

試写会のあと、私が泣きながら「ありがとうございます」って言ったら、八鍬さんが「楽しかったですね」って言ってくれたこともとても嬉しく、光栄でした。そんな私たち二人の肩を抱き寄せてくれる人がいて、振り返ると、むぎわらしんたろう先生が……。「おつかれさま、よかったね」って言ってくださって、さらに涙がぶわっと出てきて(笑)。むぎ先生は、これまでずっと「映画ドラえもん」をつないでこられたお一人。私が脚本執筆に戸惑っていた時にも、こんな言葉をかけてくださいました。
「映画ドラえもん、楽しんでください。ドラえもんたちもきっと、新しい世界へ冒険に行けることを楽しみに待っているはずですよ」と。

むぎわらしんたろうさんが辻村さんに贈ったイラスト
※本イラストは「コロコロアニキ2019年春号」に掲載中

おかげで楽しい冒険になりましたね。辻村さんやスタッフが、楽しんで仕事をしていたかどうかが僕にとってはいちばん大事なんです。作品がどんなに評価されたとしても、現場でかかわる人たちが嫌な思いをしていたら自分が幸せになれないじゃないですか。5年、10年経ってからも、「あのとき楽しかったね」とみんなが思える作品を今後も作っていきたいですね。

私は無事にバトンをつなげたので、小説の世界へと戻ります。これから先、未来の「映画ドラえもん」に携わる皆さんには、むぎ先生から私がいただいた言葉をそのままお伝えしたいです。「どうか映画ドラえもんを楽しんでください」!

辻村さん、八鍬さん、すてきなお話をありがとうございました!
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』は全国公開中です。ぜひ劇場へ!

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